
インビザライン治療中に発生する『浮き』は、誰にでも起こり得る問題です。しかし、許容範囲を超える浮きを放置すると、治療計画の遅れや矯正効果の低下など、さまざまなリスクを引き起こす可能性があります。
この記事では、インビザラインの浮きの許容範囲や原因、放置した場合のリスクについて詳しく解説します。
インビザラインの浮きの許容範囲は?

インビザラインの浮きの許容範囲は、一般的に2mm以内とされています。
新しいアライナーに交換した直後や治療開始時は、特に浮きが生じやすい時期です。1〜2mm程度の軽微な浮きであれば、数日間の装着で改善することが多いため、心配する必要はありません。
ただし、1週間以上経過しても2mmを超える浮きが続く場合は、治療に支障をきたす可能性があります。アライナーと歯の間に大きな隙間ができると、適切な矯正力が加わらず、計画通りに歯が動かなくなる恐れがあります。
浮きの程度や部位によっては、自己判断せずに担当の歯科医師に相談しましょう。
インビザラインで浮きが発生する原因

インビザライン治療中に浮きが発生することは珍しくありません。浮きにはさまざまな要因が関係しており、適切な対処が必要です。
ここでは、浮きが発生する原因について解説します。
歯の動きの遅れ
インビザライン治療では、事前に各患者さんの歯の状態や目標とする歯並びを考慮して、綿密に計画された移動パターンに基づいてマウスピースが作製されます。
しかし、実際の歯の動きが予想よりも遅い場合、マウスピースと歯の位置にずれが生じ、浮きの原因となってしまいます。特に注意が必要なのは、大きく移動させる必要がある歯や、複雑な動きを要する歯です。
例えば、著しく傾いた歯を直立させたり、回転した歯を適切な位置に戻したりする場合、予定通りの動きが得られにくいことがあります。
また、歯根の長さや骨密度などの個人差も、歯の動きの速度に影響を与える要因となります。
装着時間不足
インビザライン治療の成功には、1日20〜22時間のマウスピース装着が推奨されています。
装着時間は、歯を効果的に移動させるために必要な最低限の時間として設定されているため、装着時間が不足すると、歯の移動が計画通りに進まず、次のステップのマウスピースがフィットしなくなる可能性が高まります。
装着時間の不足が続くと、治療期間の延長や追加のアライナーが必要になる可能性もあるため注意しましょう。
マウスピースの順番間違い
インビザライン治療では、複数の段階的に歯を移動させるよう設計されたマウスピースを順番に使用していきます。
誤って順番を飛ばしたり、前のステップに戻ったりすると、歯の位置とマウスピースの形状が合わなくなり、浮きの原因となります。
例えば、3番目のマウスピースを使用すべき時に5番目を装着してしまうと、歯の移動が追いついていないため、マウスピースが適切にフィットしません。
逆に、進行中の治療を前のステップに戻すと、既に移動した歯とマウスピースの形状が合わなくなります。
順番を間違えると、治療の進行に支障をきたす可能性があるため、細心の注意が必要です。
装着方法が間違っている
マウスピースの装着方法にも注意が必要です。正しく装着されていないと、部分的に浮きが生じる可能性があります。
インビザラインのマウスピースは、歯の形状に合わせて精密に設計されているため、わずかな装着の誤りでも適切にフィットしなくなる恐れがあります。
特に注意が必要なのは、マウスピースを片側から押し込むような装着方法です。これにより、反対側が浮いてしまう可能性があります。
また、奥歯部分の装着が不十分な場合、前歯部分に過度な力がかかり、浮きの原因となることもあります。
マウスピースの変形・破損
マウスピースは適切に管理しないと変形や破損の恐れがあります。高温の場所に放置したり、不適切な方法で洗浄したりすると、マウスピースの形状が変わり、浮きの原因となる場合があります。
インビザラインのマウスピースは、熱に敏感な素材で作られています。例えば、車内のダッシュボードや直射日光の当たる窓際に放置したり、熱湯で洗浄したりすると容易に変形してしまいます。
また、頻繁な着脱や強い力での装着は、マウスピースの端を変形させる可能性があるため注意が必要です。
マウスピースの縁は特に変形しやすい部分なため、外す際に強い力で引っ張ったり、装着時に過度に押し込んだりせず、慎重に取り扱いましょう。
部位別│インビザラインで浮きが発生する原因

インビザライン治療中に浮きが発生する原因は、部位によって異なります。ここでは、前歯、奥歯、歯の根元、そして1本の歯のみに浮きが生じる場合の原因について詳しく解説します。
前歯
前歯部分でインビザラインが浮く主な原因は、歯の形状と大きさです。
側切歯(前から2番目の歯)は他の歯に比べて小さいため、マウスピースとのフィット感が得られにくい傾向があります。小さな側切歯とその隣の大きな中切歯や犬歯との間にできる段差が、マウスピースの密着を妨げる原因です。
また、前歯は目立つ部分であるため、アタッチメントを使用しないケースもあり、マウスピースが歯に密着しにくくなり、前歯部分が浮きやすくなります。
八重歯のような複雑な歯並びの場合も、マウスピースが適切にフィットしにくくなります。
奥歯
奥歯部分でインビザラインが浮く主な原因は、奥歯の形状と位置に関係しています。
奥歯は前歯よりも高さが低いことが多く、高さの差により、マウスピースが奥歯にしっかりとフィットせず、浮きが生じやすくなります。
また、奥歯は咀嚼時に最も大きな力がかかる部分です。強い咬合力によって、マウスピースが変形したり、歯が沈んだりすると隙間が生じやすくなります。
歯の根元
マウスピースが歯の根元までしっかりとフィットしておらず、根元部分で浮きが生じる場合があります。マウスピースの設計や製作の問題である可能性もありますが、多くの場合、装着方法や装着時間の不足が原因です。
特に、新しいマウスピースに交換した直後は、歯が移動し始める時期であるため、根元部分が浮きやすくなります。
また、チューイー(噛み締めるための補助具)を十分に使用していない場合も、根元部分の浮きの原因となります。
1本の歯のみ
インビザライン治療中に、特定の1本の歯だけが浮くことがあります。これは、歯の特徴や治療過程の特殊な状況によって起こります。
主な原因の一つは、歯の形や位置の特殊性です。例えば、他の歯より小さい歯や大きく回転した歯では、マウスピースがうまくフィットしないことがあります。特に前から2番目の歯(側切歯)や犬歯は形の変化が大きいため、この問題が起きやすいです。
また、治療計画と実際の歯の動きのずれも原因です。予定より動きが遅い歯があると、その歯だけがマウスピースから浮いてしまいます。
これは歯根の長さや骨の密度など、歯の生物学的な特徴が関係している場合もあります。
1本だけの浮きは、全体の治療に影響を与える可能性があるため、早めに発見して適切に対応しましょう。
インビザラインの浮きを放置した場合のリスク

インビザライン治療において、マウスピースの浮きは軽視できない問題です。適切に対処せずに放置すると、さまざまなリスクが生じる可能性があります。
ここでは、マウスピースの浮きを放置するリスクについて解説します。
治療計画の遅れ
インビザラインの浮きを放置すると、最も顕著に現れるリスクの一つが治療計画の遅れです。
マウスピースが適切にフィットしていない状態では、歯に正しい力が加わらず、計画された移動が進まなくなります。次のステップへの移行が遅れ、結果として全体の治療期間が延長してしまいます。
さらに、治療の遅れは単に時間の問題だけではありません。予定外の追加アライナーが必要になる可能性もあり、これは患者さんにとって経済的な負担増加にもつながります。
矯正効果の低下
浮きを放置することで、インビザライン治療の核心である矯正効果そのものが低下するリスクがあります。
マウスピースが歯にしっかりとフィットしていない状態では、設計された矯正力が歯に適切に伝わりません。これにより、特定の歯が計画通りに動かなかったり、歯列全体のバランスが崩れたりする可能性があります。
最悪の場合、治療終了時に期待していた結果が得られず、再治療が必要になる可能性もあります。
口内を傷つける
インビザラインのマウスピースが浮いたまま放置すると、口の中を傷つける危険性が高まります。浮きによってマウスピースの縁が鋭くなり、舌や頬の内側を傷つけてしまうことも少なくありません。
傷は痛みや不快感の原因となり、時には口内炎を引き起こす可能性もあります。
さらに問題なのは、傷ついた部分が細菌の侵入口になってしまうことです。細菌の侵入により口腔内の衛生状態が悪化し、炎症や感染症などのトラブルにつながる可能性が出てきます。
インビザラインの浮きを改善する方法

インビザライン治療中に発生するマウスピースの浮きは、治療の効果に影響を与える可能性があるため、適切に対処することが重要です。
ここでは、インビザラインの浮きを改善するための4つの方法について説明します。
装着時間を見直す
インビザライン治療の成功には、1日20〜22時間のマウスピース装着が推奨されています。装着時間が不足すると、歯の移動が計画通りに進まず、マウスピースが浮く原因となります。
まずは、自分の装着時間を振り返ってみましょう。食事や歯磨き以外の時間は、できるだけマウスピースを装着し続けることが大切です。
就寝中は長時間の装着が可能なため、特に重要な時間帯となります。装着時間を確実に確保すると、マウスピースの浮きを改善できる可能性が高まります。
アライナーチューイーを使用する
アライナーチューイーは、マウスピースを歯にフィットさせるための専用の道具です。新しいマウスピースに交換した直後や、浮きが気になる時に使用すると良いでしょう。
使用方法は以下の通りです。
- マウスピースを装着する
- チューイーを歯で軽く噛む
- 前歯から奥歯に向かって、満遍なく噛んでいく
- 1日10〜15分程度、この作業を繰り返す
チューイーを使用することで、マウスピースが歯にしっかりとフィットし、浮きの改善につながります。
1つ前のマウスピースを使う
新しいマウスピースに交換した直後に浮きが生じる場合、1つ前のマウスピースに戻すことも有効な方法です。歯の動きが計画よりも遅れている可能性がある場合に特に効果的です。
1つ前のマウスピースを2〜3日間装着すると、歯の位置を調整し、新しいマウスピースがよりフィットしやすくなります。
ただし、この方法を試す前に、必ず担当の歯科医師に相談しましょう。
歯科医師への相談
上記の方法を試しても浮きが改善されない場合や、浮きの程度が大きい場合は、担当の歯科医師に相談しましょう。専門家の診断を受けることで、以下のような対応が可能になります。
- 治療計画の見直し
- マウスピースの調整や再作製
- アタッチメント(マウスピースを固定するための小さな突起)の追加や調整
歯科医師は、患者さんの状況に応じた最適な解決策を提案してくれます。早めに相談することで、治療の遅れを最小限に抑えられるでしょう。
まとめ
インビザラインの浮きは一般的に2mm以内が許容範囲です。原因には歯の動きの遅れ、装着時間不足、マウスピースの順番間違いなどがあります。
放置すると治療計画の遅れや矯正効果の低下、口内を傷つけるリスクがあるため、装着時間の見直しやアライナーチューイーの使用などの対策を行い、担当の歯科医師に相談しましょう。
Shiro矯正歯科では、矯正に特化した歯科医師による個別矯正相談を行っています。浮きの程度や原因を的確に診断し、個々の患者さんに最適な対処法をご提案いたします。
インビザラインでの矯正をご検討の場合は、Shiro矯正歯科にご相談ください。